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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)15252号 判決

一 弁論の全趣旨によれば、請求の原因1の事実のうち、(一)及び(二)の事実が認められ、同(三)及び(四)の事実は、当事者間に争いがない。

二 本件実用新案権の帰属に関する請求の原因2の事実及び本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に関する同3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

三 右争いのない請求の原因3の事実と成立に争いのない甲第一号証によれば、本件考案は、原告が請求の原因4で主張する各構成要件からなることが認められ、なお、この点は被告らもこれを争わない。

四 被告製品の製造、販売に関する請求の原因5の事実及び被告製品の構造に関する請求の原因6の事実も、当事者間に争いがない。

五 そこで、被告製品が、本件考案の技術的範囲に属するか否かを判断する。

1 被告製品の構造(一)は、本件考案の構成要件(一)を、被告製品の構造(二)は、本件考案の構成要件(二)をそれぞれ充足することが明らかであり、この点については、被告らもこれを争わない。

2(一) 本件考案の構成要件(三)は、原告らが主張するように、<ア>一定レベル以上の振幅の音楽信号が入力したときのみに出力する回路であること及び<イ>この一定レベル以上の振幅の音楽信号が入力したときに、音楽信号の振幅に応じた出力信号を出力することの二点をその内容とすることが明らかである。

そこで、これを更に検討するに、まず、この構成要件にいう「一定レベル」とは、通常の用語例によれば、「一つに決まつている、あるいは、決まつていて変らない水準」という意味であり、その意味からすれば、右<ア>は、音楽信号のうち、ある固定された一つの値以上の振幅のものが入力されたときのみに出力され、その値未満の振幅の音楽信号が入力されたときは、足切りされて出力しないという回路であると解される。

更に、前掲甲第一号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明中には、構成要件(三)に相応する回路について、「波形整形回路6は、シユミツトトリガ回路等から構成されるもので、所定電圧例えば〇・一五V以上の音楽信号が入力したときのみ動作させてパルス信号を出力させるものである。」(本件公報二欄二七行目から三〇行目)との記載及び「波形整形回路6は、増幅した音楽信号を入力して、例えば〇・一五V以上の音楽信号のときのみ、第5図の6´に示すように波形整形したパルス信号を出力する。」(本件公報三欄三〇行目から三三行目)との記載があることが認められる。

本件明細書に開示された技術内容は、右のとおり一つの固定された値以上の振幅の音楽信号が入力したときのみに出力される回路であるということだけであり、本件明細書中に、かかる構成以外の技術内容が含まれることを示し、あるいは示唆するような記載は、全く見当たらない。

原告は、この点につき、「一定レベル」とは、固定されたものではなく、変化しうるものである旨主張するが、かかる主張は、右に述べたとおり、「一定レベル」という用語の通常の意味自体に反するのみならず、本件明細書中に、そのようなことを示し、あるいは示唆するような記載は全く見当たらない以上、採用することができない。

(二) 前記争いのない被告製品の構造(三)によれば、これは「タイミング信号発生回路」というものであるところ、その具体的な内容は、まず、入力した音楽信号を、互いに時定数の異なる一対の積分回路40、42´で積分し、これによつて、基準レベル信号と積分音楽信号とを発生させ、この基準レベル信号と積分音楽信号との大小を比較回路50によつて比較し、その比較の結果、積分音楽信号が基準レベル信号より大となるときにゲートを開き、小となるときにゲートを閉じ、ゲートを開いたときに、一定振幅のタイミング信号を発生するというものであることが認められる。

右によれば、まず積分音楽信号を発生させる積分回路と、基準レベル信号を発生させる積分回路とは、時定数が異なるというのである。そうすると、時定数が小である積分回路は、入力した音楽信号の振幅や時間の変化に敏感に応答することになるから、そこから出力される信号の波形は、立上り、立下りともに急なものとなる。一方、時定数が大である積分回路は、右とは逆に応答が緩やかであることになるから、そこから出力される信号の波形は、立上り、立下りともに緩やかなものとなる。

したがつて、それぞれの積分回路から出力された基準レベル信号と積分音楽信号とは、その一方が他方より大となつたり、逆に小となつたりする場合が生じることになり、そのうち、積分音楽信号が基準レベル信号より大きいときにタイミング信号が発生し、なお、この積分音楽信号と基準レベル信号との大小の比較が比較回路によつて行われることになる。そして、右の基準レベル信号は、それ自体、音楽信号を積分回路で積分することによつて得られたものであるから、入力される音楽信号の強弱に応じて時間的に変化するものであることも明らかである。

(三) 以上によれば、被告製品は、固定された一定レベル以上の振幅の音楽信号が入力したときのみに出力信号を出力する回路という構成を採つていないことが明らかであるから、その余の点について検討するまでもなく、本件考案の構成要件(三)を充足せず、したがつて、本件考案の技術的範囲に属しない。

六 よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註その一〕本件の実用新案権は左のとおりである。

登録番号  第一五六二九五四号

考案の名称 美容マツサージ装置

出願日   昭和五六年一一月一一日

出願公告日 昭和五九年一月一一日

登録日   昭和五九年八月二九日

〔編註その二〕本件考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

「音楽の音の波形に応じた音楽信号を出力する音響装置と、前記音楽信号を入力して音楽の音を発生する再生装置と、一定レベル以上の振幅の前記音楽信号が入力したときのみにその音楽信号の振幅に応じた出力信号を出力する回路と、この出力信号を入力して前記音楽信号の振幅の大きさに応じたパルス電圧を出力する電圧出力回路と、前記出力電圧を入力して所定個所にこの出力電圧を印加してマツサージ電流を流すパツドとを具えた美容マツサージ装置。」

〔編註その三〕本件考案の構成要件は左のとおりである。

(一) 音楽の音の波形に応じた音楽信号を出力する音影装置を具えること。

(二) 前記音楽信号を入力して音楽の音を発生する再生装置を具えること。

(三) 一定レベル以上の振幅の前記音楽信号が入力したときのみにその音楽信号の振幅に応じた出力信号を出力する回路を具えること。

(四) この出力信号を入力して前記音楽信号の振幅の大きさに応じたパルス電圧を出力する電圧出力回路を具えること。

(五) 前記出力電圧を入力して所定個所にこの出力電圧を印加してマツサージ電流を流すパツドを具えること。

(六) 美容マツサージ装置であること。

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